僕にはもう「きれいなぜつぼう」はいらない - 映画「スカイ・クロラ」感想

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押井映画を劇場で見るのは初めてなので、素人感想になります。

5点満点で、映像5/音楽5/演出5/配役4/物語3というところでした。

 


 

映像技術は群を抜いてすばらしいと思います。画面を見ているだけで、鳥肌たちっぱなし。戦闘機のシーンも、 「千と千尋の神隠し 水上列車シーン」的な留め置きのシーンも、どれもこれも美しすぎますね。ゾクゾクしました。なので映像と演出は5。 そしてそれに付随するサウンドも、非常に臨場感があってすばらしい。音楽も5です。

 


 

配役は、草薙役の菊池さんが、どうしても声で僕を酔わせてくれなかったのが残念でした。「子供だけど大人」 的意味合いの声だとは理解出来たのですが、どうしても深みが一つ足りなかった。脳髄を引っ張ってくれなかった。 主人公の声は意外にしっくりきましたね。生理的な生々しい声だったかなと思います。なので配役は4。

 


 

さて物語。これは3をつけました。何故ならこの物語はたぶん、僕向けの作品ではなかったので。例えば10年前の僕なら、 ストーリーに5をつけたと思います。

ひとことでいうと、スカイクロラで描かれる「きれいなぜつぼう」は、清濁併せ飲むようになった今の僕には、 不要なものだということです。「きれいなぜつぼう」の中で生きるよりは「泥臭くてどうしようもない希望」の中で生きているからです。

 


 

つまり、スカイクロラを見て思い知ったのは、僕はもう「毎日に生きる意味を見いだせず、生きる実感も見いだせず、 ただ生き続けるという地獄の中にいる少年=キルドレ」ではなくなっていたということです。 スカイクロラは僕に向けた作品ではありませんでした。

キルドレとは何か。この作品はある程度設定を知ってから行くのがいいと思うので、ある程度ネタバレします。

遺伝子制御薬の開発時に偶然生まれてしまった子供のこと。

思春期で体の成長が止まり、 病気もしなくなる。

主義主張、定まった価値観のない永遠子供である。

彼らには周囲からの制約が多いため、束縛の無い自由“空”を求めている。



戦争ビジネスにおいて深く関わっている。

キルドレとは - はてなダイアリー

この作品では、メインキャラクターが皆、キルドレなのです。 たとえ話ではなくて、本当にそうなのです。年齢は大人なのですが、皆肉体は思春期前後のまま止まってしまっているのです。スカイクロラは、キルドレの物語です。

個人的にはスカイクロラの言う「キルドレ」は答えが見つからず模索の真っ最中で真っ暗闇で何にも見えない、 どうやって生きていくか分からないけど死ねない、みたいな「状態」を示すものではないかと解釈しました。 それは押井監督自身のことであります。そして、それは今の僕の状態ではありません。

 


 

ストーリーでは、地上は非常に厳密に重厚に描かれる「大人の世界」、空中ではパイロットであるキルドレが自由になれる魂の世界、 といったような描かれ方をします。

それはおそらくですが、例えば僕が子供の頃、渋谷の街をみて圧倒されると同時に、なんて汚い街なんだろう、 と怯えながら山手線に乗った時のような感覚を、観客に味あわせるためではないのかな、と感じました。

つまり地上の「大人の世界」は非常に堅苦しく、自分の永遠とも思われる生の繰り返しを押しつけ、 何もかも不自由な中を生きなければいけない、そういった閉塞感みたいなものを描写しているんです。

「大人の世界」では生きている実感が得られないキルドレ達が、命を削って戦う空の戦争では唯一命を感じる事が出来る、 そういう話なのです。そして、「大人の世界」は不動のもので、そこから脱出することはほぼ不可能に近い、と。

そしてそんなキルドレを、「現代的な若者」とパンフでは定義していました。

 


 

しかし、個人的にはキルドレは「一昔前」と感じました。

それは25歳の僕自身が、模索のみの時期から脱しつつあるという事でもあるでしょう。

そして、実際に日本全体も、戦後五十年体制崩壊から20年近くが経ち、そろそろ新たな価値観があちこちで形をなしつつある、 という感覚が僕の中にあります。さながら戦後20年後の1960年代に日本文化が花開いたように、戦後50年体制崩壊の20年後である今、 そろそろ萌芽の季節なのではないかと考えています。

具体的に言えば「大人の世界」は不動ではなく、この手で書き換え可能だ、ということです。

押井監督は、「キルドレ」達に「毎日が永遠に続く繰り返しの地獄のように感じられても、それでも毎日は変わっていくし、全て、 毎日は変わっていく」と伝えたいと言っていました。

しかし、「変わっていく」んじゃなくて、「この手で変えるべき」じゃないか、僕はそう思うのです。

日本が「キルドレ」状態だった時代はそろそろ過ぎようとしているのではないでしょうか。結果、 この映画がどこまで受け入れられるのかは僕は未知数です。この映画への反応を見て、日本が現在どこまで「キルドレ」 なのかを判断しようかと思っています。

 


 

余談ですが、この前ポニョをみたこともあり、押井監督を宮崎監督と対比させようとしたんで透けど、うまくいきませんでした。

たぶん庵野秀明監督と対比させたほうがより正確な対比ができそうです。

つまり、写実の集合としての自然を映し出そうとした押井監督と、 記号の集合としての本質を抜き出そうとした庵野監督。この対比がしっくり来ます。

実際スカイ・クロラのパンフで庵野秀明が感想を載せていました。「 『押井作品で初めて寝なかった』と友達が言っていました」みたいなことを書いていました。これ友達が言ってたんじゃなくて、 本人がそう思ったんじゃないのかな。

 


 

ポニョとスカイクロラを比較するとするならば、ポニョもスカイクロラも「受け止めろ」というメッセージは同じなんですが、

  • ポニョは大人達に対してこれからやってくる訳の分からない、「当たり前」 から大きく外れた社会を「受け止めろ」
  • スカイクロラは、日々の「当たり前」の繰り返しに疲れた若者達に、 それでも日々は変わっていくし、それを感じる事で「当たり前」を「受け止めろ」

というところかなと思っています。