出演キャラ総マッチョ化による「宮崎ファンタジー」から「宮崎童話」への移行(おまけもあるよ!) - 映画「崖の上のポニョ」感想

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観た感想を一言にすれば、 「宮崎駿映画の中でもっとも童話度の高い作品」でした。ファンタジーと言うより、童話というべきです。結果、ジブリアニメの中で最も子供向けの作品となりました。

社会的常識がほぼベースになっていないため、常識に囚われていない幼い子供こそが「崖の上のポニョ」を一番楽しめるでしょう。実際映画館では、 子供たちが食い入るように画面を見ていました。

童話度、という言葉を勝手に定義するならば、どれだけ当たり前=常識=既存概念に囚われないか、という事だと考えています。

今回の「崖の上のポニョ」は一見現代日本の物語に見えますが、それは見せかけです。出てくる登場人物のほとんどが常識に囚われていないからです。おそらく常識に囚われているのは、「トキ」という名のお婆さんただ一人だけです。

トキさん以外は、ポニョや主人公の少年、少年の母親、養護施設の老人たちやスタッフ、街の人に至るまで、ほぼ全く既成概念には囚われていません。結果、全員が恐ろしいまでの強さを見せています。最近の言葉を借りれば、出演キャラ総マッチョ、といっても過言ではありません。

あまり書くとネタバレになるので控えなければなりませんが、例えば、少なくとも数百人、最悪で数万人以上の死者が出るだろうと考えられる出来事が劇中にあるのですが、しかし登場人物の皆にはほぼ全く悲壮感がないのです。むしろ明るい。

避難のシーンすら、まるでお祭りのように描かれ、皆ポジティブで、明るいのです。僕ら現実に生きる人間ならばまず出来ない程のポジティブさを、ほぼ全員が持っています。そして、次々と起こるあり得ない出来事の連続を、ほぼ全員が受け入れています。

「常識的に考えれば」これはほぼあり得ないことと言い切れます。

少なくとも今までの宮崎アニメであれば、大人たちが既存概念に全く囚われないかのような反応を、しかも皆が示すことなどあり得なかった。今まで宮崎アニメ内のファンタジーには、ファンタジー内の社会ルールがあり、皆少なからずそれに囚われて生きていました。

未来少年コナンだって、風の谷のナウシカだって、天空のラピュタだって、もののけ姫だって、主人公たちはある程度の社会ルールに縛られ囚われながらも、そこからの脱却を戦いの中目指す物語でした。となりのトトロや魔女の宅急便、紅の豚、千と千尋の物語、ハウルの動く城だって、日常の社会ルールの中に潜む、ほんの少しのファンタジーの物語でした。

しかし今回の「崖の上のポニョ」は一見現代日本のように見えつつも、社会ルールが一見ありそうに見えつつも、その崩壊がほぼ一瞬で受け入れられてしまう。しかもほぼ全員に。これは最早ファンタジーでなく、童話です。「当たり前」が存在しない、もしくは「当たり前」に依存する人間がいない世界。それは、記号と象徴の究極の世界である童話です。

そして「ポニョ」は劇中で、「当たり前」を全て「当たり前」とは思わず、そして「当たり前」を崩壊させる存在として存在し続けます。

そして、だからこそ、子供たちは「ポニョ」に一番感情移入するでしょうし、実際劇場では、「ポニョ」が笑えば子供たちが笑い、「ポニョ」が驚けば子供たちも驚き、「ポニョ」が怖がれば赤子が泣き出したりなどしていました。

つまりは子供たちは「ポニョ」なのでしょうし、そして僕らはそれを受け入れる覚悟がいるよ、と宮崎駿は僕らに伝えているように見えました。子供たちを受け入れる作業は、つまりこれからやってくる訳の分からない未来、「当たり前」が大崩壊しまくる未来を受け入れる作業そのものだからです。

ただ別に「未来を受け入れなきゃ」と肩肘張らなくても、ラストシーンを見る限りでは「未来に僕らを受け入れてもらえばいいじゃん」、 みたいな楽観性も感じたのですが。


おまけ1

宮崎作品の法則として、新しい作品になるほど、劇中の死者数が減ってきてる。

1978年「未来少年コナン」⇒推定60億人超
1983年「原作版ナウシカ」⇒推定5000万人
1984年「映画版ナウシカ」⇒推定50000人
1986年「天空の城ラピュタ」⇒推定2000人
1995年「on Your Mark」⇒推定500人
1997年「もののけ姫」⇒推定300人
2001年「千と千尋」⇒0人
2004年「ハウル」⇒0人
2008年「ポニョ」⇒間違いなく0人

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実際0人かどうかは劇場で皆さんが判断するのがいいかなーという感じです。

久石氏へのメモよりパヤヲが作品の裏に込めた思想

・物語の構造は簡潔に「海=女性原理」「陸=男性原理」
・その為小さな港町は衰退し、男たちの船は忙しく行き来しているものの誰もそれを尊敬していない。
・女達も同時に衰えている。海辺でお迎えを待つ老女達。快活だがやり場のない怒りも抱えるリサ。
・ポニョは女性原理の生粋といえる存在。食べる事、抱きしめる事、追いかける事にためらいなし。
・グランマンマーレはポニョが見事に成長した姿。全ての命の源。多産。一妻多夫。

・5歳の宗助は「男」になりきらない最後の年代。
・彼の課題はポニョの全てを受け入れる事。好きになる事。守り抜くこと。
・多くの観客は彼の約束をすぐに忘れ去られる類ものと思うかもしれないが、彼には重要な問題。
・フジモトのように理屈の世界に逃げ込むか、耕一のように感情に逃げ出すか・・・。
・しかし宗助は逃げずに真っ直ぐ突破し全部を受け入れる。故に主人公の資格を持つ。

・宗助の心の強さで世界は新しいバランスがとられる
・もちろん男性原理が勝ったわけでも女性原理が勝ったわけでもない。
・不安定で先が思いやられる状態で映画は終わる。
・それは21世紀以降の人類が背負った命運で、一遍の映画が決着をつけるべき課題ではない。

「すべてを許容する」というのは原作「ナウシカ」完結以来、一貫しているね

【文化】 “♪ポーニョポーニョポニョ、女の子?” 「崖の上のポニョ」試写会、 宮崎駿監督現る…ドアラとプロデューサー対談も★3
これは本当なのかは判らないですけど、少なくともかなりおもしろい仮説ですね。

おまけ2

ポニョ、というなんともツッコミづらい名前。耳に残る主題歌。それぞれはインターネットのクリエイティブを刺激し、多くのネタが発生しました。主にTwitter上で。いくつかおもしろいとおもったのを挙げようかと思いましたが、あまりに下ネタとロリコンネタが多すぎて断念しました。なので小咄でもどうぞ。


「ポーニョ ポニョ ポニョ あなたの子♪」彼女は唄いながらポニョポニョに膨らんだ自分の腹部をさすり、そして僕を見つめ、にっこりと微笑んだ。僕も凍り付いたように微笑み、しかし、まるで氷が溶け出したような脂汗が顔中を伝う。(崖の上にいるのは、僕か)

「ポーニョ ポーニョ ポニョ あなたの子♪ 酸の海越えやってきた♪ ポーニョ ポーニョ ポニョ ふくらんだ♪ まんまる・おなかの♪私な・の♪」彼女は楽しそうに、ふくらみつつある自分のお腹をさすり唄うのだった。僕は「ポニョ!」と叫び喫茶店の席を立ち、崖の上を目指し走り出した。

「ポニョ!ポニョ!!」僕は叫び、走りながら、必死に脳内に響く彼女の歌を掻き消そうとするのだが、掻き消そうとすればするほどその歌は脳内に響き渡り、まるで多重奏のように僕の意識を埋め尽くした。怖い、苦しい、なんでこんな事に!という想いは、全て「ポニョ!」という叫びにしかならない。

走って、走って、走り続け、僕はいつのまにか崖の上に来ていた。息を切らし、立ち止まった時、後ろに気配を感じた。振り返ると、彼女がいた。「何故!?」「貴方が逃げるから」「僕は君なんて知らない!」「酷い!」「酷くない。君はもう、本当は死んでいるんだよ」 (今夏注目のホラー『崖の上のポニョ』近日公開!)


今回、あまりに主人公の少年がポニョという不条理を受け入れすぎるので、不条理を受け入れられない男でも書いてみようかな、そう考えてしまう僕は汚れています。

なお、この小咄で語られる内容はあくまでフィクションであり、小咄中に登場する人物・団体名等は、実在するもの、特に筆者とは一切関係ありません。また、この小咄の内容を信じたことで何らかの被害に遭った場合でも、作者はその責任を一切負いません。

この一連を僕がTwitterにpostしたとき、アメリカにいる従姉妹が「妊娠告白がどうとか…気でも狂った?何が伝えたいのか全く判らない。ポニョって何」みたいなことを僕に伝えてきましたが、決して僕自身には問題はあります。いや間違えた、あの、社会で問題を起こさない程度だと僕は信じていますので、そうですね、なんというか、優しく扱ってもらえれば、そういう気持ちです。ありがとうございます。


(追記 08/07/21 20:15)たけくまさんがポニョについて大混乱しているのを観測。

昨日の土曜日、宮崎アニメの新作『崖の上のポニョ』を見てきました。一応、ネタバレにならない範囲で感想を書きますと、見たことがない種類のアニメーション映画でした。アニメーションとしても映画としても、似た作品を俺は思い当たらないし、過去のどの宮崎アニメとも似ていません。

もちろんキャラクターとか、ディティールの演出やセリフはいかにも「宮崎駿」なんですよ。確かに宮崎アニメに違いないが、見ている最中の「違和感」は、これまで感じたことがないほどのものです。まるで、はっと気がついたら父親が人間モドキに変わっていたような感じ。

たけくまメモ : 宮崎駿のアヴァンギャルドな悪夢

もしかしたら、この記事が一つの鍵の仮説になるかもしれないし、Track Backを送ってみます。突っ込んで書いてみるなら、

{(人魚姫+ニーベルンゲンの指輪)-常識的社会ルール}/童話的デフォルメ/アニメ的デフォルメ*宮崎駿とスタジオジブリの技術表現力=崖の上のポニョ

って感じかなと踏んでるんですがどうでしょうたけくまさん。