情報系学生のための交流企画「IT企業はほんとに泥のように働かされるのか」レポート

情報系学生・ 若手エンジニアのための交流企画「IT企業はほんとに泥のように働かされるのか」ナナロク世代がお答えします、 というイベントが東大研究室主催で行われるというので、参加してきました。

個人所感としては、「IT業界は泥のように働かされるのか?」→「IT業界の全てで泥のように働かされるわけではない。少なくとも僕はそうは感じなかった」というパネリスト達のメッセージは、学生達に伝わったのではないかな、と思いました。IT業界をイメージするための場は構築されつつあるのかなと。

以下レポートになります。基本的に、走り書きでメモした内容なので、間違いが多いとは思います。間違いがありましたら、 コメントなどでお知らせいただければ幸いです。


イベント目的

2008年5月28日、IPAが開催したイベント「IPAX2008」にて、学生とIT企業経営者間で以下のようなやりとりがありました。

西垣氏は伊藤忠商事の取締役会長丹羽宇一郎氏の「入社して最初の10年は泥のように働いてもらい、次の10年は徹底的に勉強してもらう」という言葉を引用し、「仕事をするときには時間軸を考えてほしい。プログラマからエンジニア、プロジェクトマネージャになっていく中で、仕事というのは少しずつ見えてくるものだ」と説明。これを受けて、田口氏が学生に「10年は泥のように働けます、という人は」と挙手を求めたところ、手を挙げた学生は1人もいなかった。

「10年は泥のように働け」「無理です」――今年も学生と経営者が討論 ? @IT

で、この記事をみて、IT現場で踏ん張っている人たちや、学生たちが、経営者たちに猛反発。その発言は時代遅れなのではないか、という反発です。

時代錯誤。泥のように働くのが良いか悪いかは別にして、こんな認識しかできないようでは、とても世界に打って出れる企業はできないでしょ。

日本企業はエンジニアを単なる労働者としか見ていない。これじゃ優秀なエンジニアは選択しない。エンジニアは専門職。ちゃんとした待遇で迎えない限りまともな学生は採れない。

「入社して最初の10年は泥のように働いてもらい」・・・その結果、またメンヘラーとIT業界への失望を抱く人間が出来るだけかと。人月商売と偽装請負の多重構造のまま人を使い捨てにするIT業界に未来は無い。

?こういうダメ経営者を淘汰するメカニズムが機能していないことが、日本のIT業界の最大の問題。労働流動性を上げるまえに、「経営者流動性」を上げろよ。/やはり外資導入するしかないのか?

はてなブックマーク - 「10年は泥のように働け」「無理です」――今年も学生と経営者が討論 - @IT

では、そもそも、「IT業界は泥のように働かされるのか?」という疑問について、IT業界10年目の人たちが、就職前の学生たちに答えよう、という趣旨で行われたイベントです。


イベント詳細情報

■ 日時・場所:
  7/12(土) 15:00-17:00 17時から懇親会
  東京大学 本郷キャンパス(工学部2号館 10F 電気系会議室5
■スピーカー
モデレータ 岩佐琢磨氏(株式会社Cerevo CEO, 元パナソニック,アルファブロガー)
      http://www.cerevo.com/
      http://d.hatena.ne.jp/wa-ren/
パネリスト 大谷陽明氏(ソニー エンジニア)
パネリスト 尾藤正人氏(ウノウ株式会社CTO)
      http://www.unoh.net/
パネリスト 柴田竜典(日本オラクル プリセールスエンジニア)
パネリスト 加藤篤延氏 (NTTコムウェア, SI業務担当)
 

ゲスト
ディー・エヌ・エー 取締役 守安功
http://www.dena.jp/
ディー・エヌ・エー 取締役 川崎修平
http://www.dena.jp/
はてな 取締役副社長 川崎裕一
http://d.hatena.ne.jp/kawasaki/
インスプラウト 代表取締役社長 三根一仁
http://www.insprout.com/
ウノウ代表取締役社長 山田進太郎
http://suadd.com/blog/


パネルセッション開始

東京大学 大学院情報理工学系研究科 川原助教の開会の挨拶

十年前、IT企業ってのは入ってからじゃないと判らなかった。そういう十年前の自分に向けて、IT企業はこんなところだよという場があればいいんじゃないか、ということで場を作った、変なマイナスイメージが先行してしまう前に、なんとかしたい、とのこと。

岩佐氏のモデレート開始

  • まず、どこでこの会を知ったかを聞かれる。ブログなどで何人か知ったらしい。就職してるのは3人ぐらいだった。
  • 今回の流れ説明
    • ITギョーカイ俯瞰図「ひとくくりにしてはだめ」
    • パネラーの「お仕事紹介」おもろいことやってるよ
    • ぶっちゃけFAQ ありがちな質問をいくつか投げてマルペケで答えてもらいます
    • 質疑応答50分
  • IT業界俯瞰図。SIerや家電業界、サービス業界ほかにもいろいろある。
    • メーカー内の一部
    • ソフトウェアベンダー
    • SI
    • サービス提供者(ウノウとか)
  • IT業界ってなんだ→「情報処理産業のこと」

NTTコムウェアの加藤氏のターン。SI代表として。

  • たとえばSIerはウェディングプランナーみたいなもの。
  • SIは開発のみじゃない。営業とか企画とか全部あわせてのこと。
  • 物を作るところで全体を管理している。マネージメントしている。

ソニー大谷氏さんのターン

  • 今回は個人的な参加。
  • VAIO関係の部署にいて、2000年ソニー入社。
  • ソニーの理由は、物が作れて東京でいろんなことが出来そうで、専門が生かせそう、好きなときに休めそう、 給料が高そうなど
  • 作ったものは、VAIO-MX,VAIO-MXS,Vaio-TypeX,XVideoStation
  • 内部softwareもやってるし、プロトコルも組んでるし、仕様も組んでる。
  • 偉い人がこれも入れろあれも入れろ、などと言われる製品もあった。
  • 自分が作りたくて作って、赤字だったけど楽しかった

日本オラクルの柴田氏のターン

  • 例えるなら、自作PCの作るのを手助けする仕事が加藤さんで、自分はパーツ屋です、とのこと。
  • プリセールスのエンジニアをやってる
  • オラクルの業種としてはほかにホストコンサル/サポートがある。
  • プリセールスの仕事は外部との繋ぎ。ホストコンサルが設計、サポートがトラブル対応。
  • 余談として、富士通とかNECはここにいる人たちを集めたような会社。

ウノウの尾藤さんのターン

  • プログラマもサーバー管理者もCTOもやってる。ベンチャーウノウ。三年前から。
  • フォト蔵とか映画生活とか、受託案件。WEB系で色々やってる。
  • 社内体制として、全員ノートパソコン。フリーアドレス。ペーパーレス。CWO、最高記述責任者を設置してwikiを管理。
  • ほかに社内制度として、セミナー参加制度。裁量労働制。サイトレビュー、コードレビュー、ライトニングトーク
  • イベントなどもエンジニアMTG、ラボブログ、イベントを色々やってる

ありそうな質問にパネラーが○×で答えるコーナー

  • 入社2年目に全体が見えていたか->全員○
    • 見えてない人たちが集まるProjectはむしろ失敗して表に出ない?(大谷)
    • SIはむしろ全体が把握できてないと話にならない。営業領域は少しわからないけど(岩佐)
  • 下積みとして虐げられたなあという経験があったという人→岩佐さんのみ○
    • 最初の半年は工場で、その後半年は色々研修あったりして、一年ぐらい(岩佐)
    • 研修後、製品担当になってそのまま始まっていた(柴田)
    • ウノウの前もHDというベンチャーで、新卒1号だったし、即戦力扱い。C++でパッチ作れみたいな。(尾藤)
  • 一人で十人分の仕事をしているような人はいるか?→加藤氏のみ×
    • なかなかイメージできないというか、見当たらない(加藤)
    • 十人の書いたソフトより、一人の書いたソフトのほうが早い、みたいなことがあるよ(大谷)
    • 以前組込みの仕事をやって、ArmLinuxの火消しをやった。無限ループとかになってた。 理解度の低さが生産性に直結。(尾藤)
    • オラクルでプリセールスやってるの20人。少ない。替えが利かない。(柴田)
      • 自分の所感:自分の部署は、一人一人が完全に専門分化しており、 ほかのひとがやったことは自分ではどれだけかかったか判らない。逆に自分がやったことが、 ほかの人がどれだけかかるか判らない、みたいなのがあるな、など
  • 先週、20時より前に帰宅した日があるか?→全員○
  • 休みは取れるの→全員○
  • 入社二年目以降で、どれくらい自分のやりたいことが出来るか、そういう実感はあるか→全員○
    • 結局、自分の信用が重要で、それが二年目ぐらいから(大谷)
    • いきなりもうずっとそんなかんじだった(尾藤)
    • うまく全体がコントロールできるようになってきたのは三年目ぐらい(加藤)
  • 給料どれくらいのびたよ、みたいな話は、やめとこうみたいなことでいきます、なんとなく(岩佐)
  • 入社5年で何らかのスキルが身に付きましたか→全員○

質疑応答(50分)

  • Q.それぞれのIT業界の種類で、受け口の人口比率はどれくらいあるのか。
    • A.SIerというより、協力会社がやたら大きい?(誰だったか忘却)
    • 協力会社とかは、ここにいらっしゃる方々はいかなくて済んだ領域(観客)
    • 家電の半分近くは自社開発ソフトウェアに携わっていたりする。(岩佐)
  • Q.皆さんがどのへんを目指しているのか、という質問。(昇進か今のままか、権限を目指すか否か
    • A.日本がTechnical Issue的なところで負けてしまっているのが今問題かなと思ってて、 それを解決するために偉くなるのもありかな、と思ってる(大谷)
    • マネージャーはマネージャー、エンジニアはエンジニア、役割分担。権限と言うか、そういう意識はない(柴田)
    • 起業をしてもらいたいと思ってる。なぜか。エンジニアの仕事を評価して反映してくれる上層部が少ないから。 それを変えようぜと(尾藤)
    • 企画系経営者から言わせてもらえば、マジョリティじゃない人たち向けな製品を作るには起業しかない。既存企業だと、 既存市場しか見ない。(岩佐)
  • Q.どんどん学んでいきたいけど、自分の学びたいものは学べますか?
    • A.たとえば、今デジタルフォトフレームというのを作ってる。作れと言われたから作る。でもどうつくるかは指示されない。 だから僕は、やったことないものを勉強するために仕様をきめちゃったりする。今回も組込みLinuxをつかっちゃった。 無理やり使う理由をこじつけて使いたい技術を使えばいいのでは。(大谷)
    • 時代はGoogleですよとか、Youtubeですよとかいって、適当にこじつけて色々騒いだことを思い出す(岩佐)
    • 色々なことをやってしまうひとはたくさんいるよ、顧客にも。無難にやる人もいるし、すげー事をやる人もいるし。(柴田)
    • 本人のやる気が一番大事で、ぽーけーとやれば無難になるし、結局そういうこと(尾藤)
  • Q.(@ITの元記事の記者さん)ここがいいんだよIT業界、という話があれば教えてください
    • A.履歴書に書けるスキルがなくて、仕事で何をやっているかといえばひたすら交渉とかで、自分は楽しい。
    • 全体的な仕切りが出来る、舵取りできるのが、楽しいし面白くて、辞められない(加藤)
    • Sierは怒られてるけど、Venderは怒られないなあという感触。あと、むしろ全体しか見えてない。 細かいとこより全体。それが楽しい。あと履歴書にオラクル出来ますとかける。担当商品を誰よりも知れる。(柴田)
  • Q.(自分の質問)@ITは例の記事で日本IT業界はダメだといった。なぜなら泥のように働かされるからだと。で、 パネラーの皆様はそんなことはない、泥のように働かされるわけではない、といった。では、そもそも日本IT業界が何故ダメなのか? それともダメではないのか?と聞かれたときにどう思いますか?僕は単純に、2005年次点でむちゃくちゃ貿易赤字だった。1:12。 それが問題だったと思っています。その理由として、色々なことがあると思っていますが。そもそも何がダメか、について、 皆さんのご意見をお伺いしたい。(ここだけ長いのは、自分が質問を下書きしてから質問したから。)
    • A.なんで僕が外資にいったか。SIerさんが海外をみていないとおもったから。Globalな視点がたりない(柴田)
    • 僕はそんなGlobal意識は常にもってる。家電の人間なので。現在、家電をドライブしてるのはソフト屋で、 だから家電のソフト屋はGlobalな意識がある。(岩佐)
    • スペシフィケーションは日本の人が理系的話題に弱い。2の階乗の答えとか答えられない人は多い。理系離れが問題。 どうにかするには勉強するしかない。教育制度が問題。(大谷)
    • 海外はクライアント側がかなり詳しい。日本は無駄にやってることが多い。(観客)
      • 自分の所感:そんなことはない、日本でもITけっこういけるはずだよ、 みたいな話がだれからも出なかったのは残念。日本のIT産業こんだけすげーじゃん、 日本の民族性はこれだけITにむいてるんじゃんみたいな、そういうのが欲しかったなと。
  • Q.なんでITベンチャーの活動が、例えば学生から可視化されていないのでしょうか?
    • A.単純に融資額が足りない。色々ベンチャーキャピタルもうるさい。(尾藤)(ここちゃんと聞けてない部分があります、 すいません)
      • 自分の所感:僕の親父が「引退した団塊世代の中から、ベンチャーキャピタリストになる人が多いんじゃないか (絶対的な世代人口が多いから)じゃないかと予測してることを思い出しました。
  • Q.これがあるから今の仕事やめられない、というポイントは?
    • A.欲しい電化商品が作れるのが病みつきですよ(大谷)
    • 自分は作りたいものが作れないから、転職などしたなーとか。(岩佐)
    • 上から下まで全部出来るのが楽しくてしょうがない。簡単に偉くなれるし(尾藤)
  • Q.転職するならどうする?
    • A.家電では何でも作れちゃうから、建築とか、CMとか作ってみたい(大谷)
    • 僕は今の仕事が好きだから別にいい。(柴田)
    • シリコンバレーで起業してみたい。向こうの土壌を味わいたい。(尾藤)
    • 料理屋をやってみたい。サービス業という形態に興味がある。(加藤)
    • 車を作りたい。ベンチャーカーベンダー。超ITマシンとか。(岩佐)

以上です。以下は自分の所感です。蛇足になりますので、お時間のある方だけどうぞ。

自分の所感

「IT業界は泥のように働かされるのか?」という学生の疑問には、答えられた交流会だったのではないかと感じました。実際、 IT業界の平均収入は、ほかの業界に比べ比較的良い(IT系は本当に給料が安い? 2万人の年収比較! ? @IT自分戦略研究所)し、この前のIPAのレポートでは、月200時間労働を超えるのはたったの4割 であるという統計もでました(IT技術者の4割は月200時間以上労働――IPAが調査 ? @IT )つまり、ほかの業界に比べても、そこまで悪い業界、 というわけではありません。

しかし、一方で、「泥に塗れて」いるのは、SIerの周辺にいる「協力会社」=下請け企業、であり、 そして下請け企業にいる人間はあの場に一人もいませんでした。あの場にいたのは、SIerやメーカーの上流、大手ベンダー、 ベンチャー所属者、そして大学生です。(僕という組込系エンジニアも一人いましたが)

なぜ泥に塗れるところが出るのか、といえば、やはり日本のソフトウェア産業は超貿易赤字(2005年時点で輸入が輸出の12倍)であり、そのツケを払っているのが下請け企業なのではないかと、僕は考えています。(1980年代まではむしろ貿易黒字だったらしいです。これはまた後で調べてエントリにします)

結局の話、IT業界に就職するといっても、自分の専門性を生かすためには就職先には大変気を使わなければいけない、 という月並な結論にはなってしまうのだと思います。

「IT業界は泥のように働かされるのか?」「IT業界の全てで泥のように働かされるわけではない。」

これがおそらく、今回学生達が受け取ったキーワードではないでしょうか。

個人的には、東京大学情報工学科に所属するほど、自分の知的領域について専門性を深めた人間ならば、 もう一般的日本企業には適合しないのでは、と。外資かベンチャーしか、その専門領域を評価することはできないのではないか、と考えています。

日本企業には、人間は万能細胞足るべし、という方向性があるのは、僕の実感としてあります。 アメーバのような一人で摂取消化排出をするような万能単細胞生物が、「コミュニケーション能力」によって合体したアメーバ人間、 それが日本企業の正体であるのだろうと。その中に、専門分化した細胞が入っても、それを評価する術はないだろうと思っています。

多分ですが、Googleは、各細胞が専門分化して完成した多細胞生物なのだろうと思っています。つまり、筋肉組織、摂取組織、 消化組織、それぞれが学問によりエキスパート化した特化組織であり、それらが統制され役割を果たすことで、 世界のどこよりも破壊力のあるパンチが打てるようになった多細胞生物なのではないでしょうか。そのミニマルがベンチャーなのでしょう。 はてなであったり、ウノウであったり、DeNAだったりするのでしょう。

これをみると日本の情報産業新卒はなんとここに出てるだけで13万人超。理系の情報工学科を修士で卒業したのは1000人前後しかいないという話があります。つまり、情報工学科卒の人間はマイノリティ、 その中でも東大卒ともなれば、完全にレアです。

そういう人間は、マジョリティである日本のIT業界、即ち、IT技術家として専門特化できないなり必死で業務知識を覚え、 曲がりなりにも日本のソフトウェアビジネスを形作ってきた、日本ソフトウェア企業には合わないのではないかと考えてしまいます。

これはたぶん短絡的な考え方ですし、

  • 「いや、日本の家電業界・車産業はグローバルな舞台で戦ってるし、その中でのソフトウェア技術は世界一流だ!」
  • 「そもそも日本のゲーム業界のことを忘れてもらっちゃ困るぜ。世界のトップランナーなめるなよ!」

みたいなことを言われかねませんけども。

(7/14 12:10 追記)この後に書いてあった「ではなぜ日本はソフトウェア産業で貿易赤字になってしまったのか」についての文章は、本題から逸れる為、削除しました。いずれ別エントリでまとめる予定です。